1988年11月10日木曜日

CHANT D'AUTOMN Ⅴ.アナーキー

憶えているよ。

なだらかな丘陵に 護られた
あの村のことは。
村人たちは哄笑し
とても 優しい眼をしていた と。

(そして霧がおとずれ
すべてが散りぢりになった)

憶えているよ。
一人は死に
一人は霧の中で 見失われ
一人は 誰にも知られない旅にでた(皆んな さようならもなく)

残されたぼくたちは
浜辺の 風に吹かれながら
いつまでも
話しつづけた

夏の終わりの一日。

* * *

それから
きみは 長い峡谷を
さまよいつづけた。失われた
あの村を
捜すために。
見上げれば いつも
首が痛くなるほど 高いところに
空はあった。それが灰色であるのか
碧色であるのか
知りえないほど 高いところに。

だが あの村はあるか どこに
あるか
それはあるのか。もしも
きみの顔が悲しげに
横に振られねばならないのであるなら きみよ
きみの背後に降りつもる
白い紙片を破り棄てよ。

秋はおとずれた

きみはもう
死人の眼をして 歩きだすときだ。

* * *

見るがいい

いま荒野に屹立する 都市の群れを。
直線だけで成立する
風景を。 (あれは俺がたてたのだ
白濁したおまえの眼球に突き刺してやるために)

視力を失った
きみの眼は そのここちよい激痛の中で
覚醒するだろう。
生きたくもない きみの眼は
その激痛の中で
覚醒しつづけるだろう。

一切は無価値であり 一切は影像である

ただ 生きている そのことが
ぼくたちにとって
唯一の意味であるだろう。たとえば建築や
建築を垂直にたどり
不等辺多角形の蒼ざめた夕空よ。
ぼくの憎悪を癒すのは

おまえだけだ。