1997年2月9日日曜日

北京の雪(Epilogue / Beijing, Jun.1996)

あれから何度か、香港や中国を訪れた。

そしてトヨタはようやく、中国における合弁会社の設立にこぎつけた。もっとも認可されたのはエンジンの合弁生産のみで、車両の製造権獲得については今後の課題ということになる。

ともあれ、将来のチャイナ市場獲得に向けての橋頭堡を築いたというところだ。


そしてぼくは、いま北京・京広新世界飯店の7階で朝食を摂っている。早くも3度目を迎えたシンポジウムの準備のために、ぼくはこの町を訪れていた。窓の外に見える北京の町はあいかわらずどんよりとした曇り空だ。灰色の街路を、土埃にまみれながらたくさんの車が行き来するのが見える。

それでも、灰色の街にも夏の風は吹くようだ。この町にも人のざわめきの聞こえる界隈があり、夕涼みにそぞろ歩くひとびとの姿があることを、今回の出張でぼくは知った。


これからどこへ行くのだろうか。

13億の人口を載せたこの超大国は、いままさに資本主義のパラノドライブに乗っかって離陸しようとしている。そしてぼくは、その翼が空に舞い上がり、何年か先に本格的な飛行をはじめる様を見守ってゆくのだろうか(改革開放の路線を現政権が維持するかぎり、それはそう何年も先ではないはずだ)。

だけれども、それはわからない。ぼくは決してこの国でのビジネスに賭けていこうと決めたわけではない。そしてぼくの歩いてゆく道がどちらにつづいているのか、少なくともそれがかつてのようにどこまでもつづく一本道ではなくなったことは確かだ。


(おわり)