北京からの国内線旅客機が、上海・虹橋(ホンチャオ)空港に着いたのは、夜10時を回った頃だった。
空港を滑り出たタクシーが上海市内に向かって走りだすと、開いた窓からふいに夜風が流れこんでくる。
それは心なしか華やいだ風だった。
つい数時間前まで雪の降る灰色の首都・北京にいたせいかもしれない。広い道路と生気のない人びと。身を切るような冷たい風。その昔遊牧民が大平原につくった首都は、昼間でも暗い色のカーテンに包まれているかのようだった。
11月とは言え、タクシーの窓から入ってくる上海の風は、北京に比べずっとやわらかい。どこからともなく人間のざわめきが聞こえてくるような匂いがした。
ファミリーカーシンポジウムが終わったあと、ぼくらはまっすぐ東京に帰らず上海に立ち寄った。翌年の上海モーターショーの会場を視察し、現地での協力会社を見つけるためだ。
メンバーはセールスプロモーション局のディレクターが2人。その年ぼくたちの会社に入ったばかりの上海生まれのチャイニーズガールZ。それに演出関係をやってもらっている協力会社のO氏。彼の香港子会社の香港人代表、それにぼくの6人だった。
陣容は立派だが、実際はそんなに仕事がある訳でもなく、ぼくらは比較的気楽な気分だった。